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第三章 緊張と驚きの連続だよ!
怜士と同じテーブルで、お茶を楽しむことを許された倫。
しかし、その席の空気は重かった。
怜士ときたら、傍の倫に話しかけることも無く、ただ瞼を伏せてカップを傾けるだけなのだ。
そして時折、静かに息をつく。
初めて顔を合わせた時から思っていたが、この怜士には何やら影がある。
美しい春に心を浮き立たせることなく、物憂げにうつむいているのだ。
(小説の中の怜士さまは、クールで理知的で。そして凛々しかったはずなんだけど)
いや、外見だけ見れば確かにその通りだ。
だが倫は、彼の心の内にそんな長所を短所に転換してしまう何かを感じていた。
冷たく、感情に乏しく、そして近寄りがたい。
(何が怜士さまを、そうさせているんだろう)
倫は一生懸命、過去に読んだ物語のあらすじを思い出そうと努力していた。
そんな時、突然に怜士が口を開いた。
「倫」
「は、はい!」
「お茶は、美味しいか?」
「え、あ、はい。すごく、美味しいです」
「どんな風に、美味しい?」
倫は傍らに立つ和生を見上げて、微笑んだ。
「蜂蜜を、少し加えてあります。ですから、甘みがあって飲みやすいです」
そんな倫の応えに和生は嬉しく頬を緩め、怜士はゆっくり瞬きをして口の端を上げた。
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