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「いえ、あの! 恐れ多いですし、ハーブの勉強もしたいですし!」
「丸一日、拘束するわけじゃない。和生に付いて、ハーブも学ぶがいい」
絶対権力者の怜士に、そこまで言われると従わないわけにはいかない。
明日の朝10時にまた、と約束すると、倫は震える足取りで和生と共にテラスを後にした。
「ぼ、僕。大丈夫なんでしょうか」
「素晴らしいよ、倫くん。怜士さまのご機嫌なご様子を、久しぶりに拝ませてもらったよ」
「あれで、機嫌がいい、と……?」
「普段は、必要最小限しか話さない御方だからね。とてもよく会話されていたし」
倫が怜士の頑なな心を、解きほぐしてくれることを、和生は願っていた。
ハーブガーデンへ二人が降りると、そこには倫が初めて出会った男・虎太郎(こたろう)が待っていた。
手には、青いリュックをぶら下げている。
「おい! このリュックは、お前のか!?」
それは、倫の通う高校指定のリュックだった。
「ありがとうございます。僕のものです」
「お前さんが寝てたところ辺りに、あったからよ」
二人のやり取りに、和生はにこにこしている。
「相変わらず優しいね。虎太郎は」
「よせよ。照れ臭い」
用件だけ済ませると、虎太郎はさっさと行ってしまった。
「ぶっきらぼうだけど、気の優しい男なんだよ。彼は」
「はい」
「君の私物も戻ったし、住まいを案内しようかな」
「よろしくお願いします」
ハーブの勉強は明日からだ、と和生は倫を家屋に連れて行った。
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