第一章 ふと覚めてみると

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 父を亡くした後、気丈な母がその跡を継ぎ社長になった。  何とか、この店を続けようと。  何とか、倫が一人前になるまではと。  母は、必死で踏ん張っていた。  子育て世代が好む、新しい商品を仕入れたり。  孫を連れて来た高齢者に、お菓子をサービスしたり。  だが、その母も、過労が引き金となって基礎疾患が悪化し、あっという間に亡くなった。  倫が高校三年生の、卒業を間近に控えた冬のことだった。 (そして僕は。母さんの納骨を終えた後、お墓の前にいたはずなんだ)  集まっていた親類たちが去り、独りぼっちになってしまった、その時。  絶望に、改めて打ちひしがれていたのだ。  だが、今の状況はどうだろう。  制服だったはずなのに、いつのまにかコットンのシャツに、デニムのボトムを身に着けている。  少し泥で汚れたそれは、作業着といった風だ。  倫の前を歩く男性も、同じような身なりをしている。 (あの人は僕を、草むしりの分際で、とか言ってたけど)  その草むしりが、僕の仕事なのかな。  本当に。夢なら、早く覚めてくれないかな。  そんなことを考えていると、ハーブガーデンに到着した。
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