第二章 出会い

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第二章 出会い

 もしかして僕は、昔読んだ本の世界に、迷い込んだのかもしれない。  半信半疑ながらも、その考えはやけにすんなりと、倫の心に染み入った。  そろそろ、大人の本を読んでみたい。  倫がそう考えたのは、中学生の頃だった。  こっそりと、父の部屋に入ってみる。  父は娯楽小説が好きだったので、そういうものなら気軽に読めるかも、と思ったのだ。  時代小説、ミステリー、SF。  様々なジャンルの本が、書架に並んでいる。  その中に、ファンタジーもあった。  何冊か選んでページをめくってみた倫が惹かれたのは、マルチバースの描かれた世界だった。  魔法や剣の幻想的な異世界ではない、ファンタジー。  それは、現代のこの国を、専制君主が支配している世界線の物語だ。  主人公たちが一見平和に思われる日常を過ごしながら、やがて陰謀の渦に巻き込まれてゆく……。   (あの頃は、ドキドキしながら読んでいたっけ)  懐かしく思い出しながらも、倫は肝心な点に気づいた。 (でも僕は、あの本を最後まで読んでいないんだった!)  高校受験の勉強が忙しくなってきたので、途中でしおりを挟んでしまったのだ。  その後は、店の手伝いや家事、そして病に倒れた父母の看病で忙しく、読書どころではなかった。  倫は、展開と結末の解らない物語の中へ、迷い込んでいた。
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