第1章 立てこもり

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「きゃー、人殺し!」 女性の恐怖の雄叫びが、店の中からけたたましく外へと漏れた。 ここは、東京のはずれ、東村山市の久米川駅からちょっと入ったサビれた繁華街。 季節としては、梅雨真っただ中の青天日で、まだまだ熱帯夜にはならない暖かい日よりの6月下旬の夜9時ごろ。 ひとりの男がその店から包丁を持って飛び出してきた。 年齢は40歳前後と思われる。 着ているアロハシャツは返り血で赤く染まっている。 持っている包丁にも血がにじんでいる。 まさに、この男が店の中で、たった今人を刺して出てきたということだろう。 先ほどの女性の雄叫びを聞いて、周りの店からも数人の男女が顔を出してきた。 包丁を持った男は、逃げるように住宅街の方へと走っていった。 騒動を聞きつけてひとりの警察官が現れ、急いで店内に入っていった。 店の中には、血を流した男性が横たわっている。 警官は、息があるかを確かめ、すぐに救急車を呼ぶように店に指示をし、表に出た。
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