~ a long ago…~

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   ──ジィーワジィーワ…と、蝉時雨(せみしぐれ)の音に、涼風。 「本当にもう、お待たせしてしまって…」  着物姿の女はそう言うと朗らかに笑い、額や頬、首筋を伝う汗を忙しなく拭いながら、手にした扇子で火照る体を冷まそうとする。 「…」  耳障りにならない程度に流れるクラシック音楽を背中で聞きながら、ラウンジに面した庭園を眺めていた男は、盛夏だというのに、その暑さを微塵も感じさせない出で立ちで外野の声を聞き流していた。  ──人目を惹く、すらりとした高身長。  しかしながら、日本人特有の『細身』という印象のない体躯にイタリアブランドのスーツを身につけた男は、雑誌モデルのようなポーズを取って立っていた。 .
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