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三人の中で唯一、
『若い』
と称することができる優貴の未来は、まだ世間の荒波を知らず、凪いだ海へと漕ぎ出したばかりの小舟のようなものだ。
それもいつしか、大海を渡るに耐えられる大きな船になるか、はたまた砕けてしまうのか分からない時期に、
『あなたはこの人に必要だから、ずっと傍にいなさい。 そうすれば、必ず幸せになれるから』
といった言葉で、義晴という港に繋ぎ止めるというのは、いささか傲慢な仕業と言わざるを得ないだろう。
そんなやり口は、勝手が過ぎる。
優貴の意志を無視し、手前勝手な考えを押しつけてはいけないことなど、義晴だって気がついているはずだ。
(それでも、あの時は)
『見合いは続ける。 ただし──お前とだ』
その場の『ノリ』で言ったとしか思えない義晴の言葉で、見合い話がおかしな方向へと舵が切られたあと。
半ば、強引に木次谷家から優貴をかっ拐った、あの時…
『そうしなければならない』
事由があったことを思い返した定国は、固く拳を握りしめた。
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