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翌朝、いつもの時間にニコラスは起床すると、朝食を食べに食堂へと向かう。扉を開けるとすでにメアリがいた。奥間の厨房で、メイドに混じって朝食の手伝いをしている。屋敷でくつろぐだけでは退屈だと、ほぼ毎日のように入り浸っているのだ。
キッチンメイドの一人がニコラスに気付いて、メアリの耳元で呼びかける。
「メアリ様、ニコラス坊ちゃんがお目覚めですわ」
「あ、おはよーニコラス」
ニコラスはすぐに駆け寄って、心配そうに少女の足元を見下ろした。
「義姉さん、足の具合はよろしいのですか? 何も今日まで食事の準備に加わらなくとも……」
「あたし、怪我の治りは早いからもうへっちゃら。そうそう、お昼のお弁当作っておいたから。それと、これは部下の皆さんにお詫び」
バスケットにはぎっしり詰まったクラブサンド。そして焼きたてのパンがどっさり入った紙袋をニコラスの両腕に抱えさせる。
「ちょっ、こんなにですか!? そもそもお詫びとは」
仁王立ちの構えで、少女は睨む。
「昨晩、あんたが任務そっちのけであたしを家まで送ってったじゃない。何考えてんのよ、部下に仕事を押し付けてそのままご帰宅だなんて」
「う、それは、その……」
メアリに気を取られて任務どころではなかったのだが、完全に私情である。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたと伝えてね。ニコラスもきちんと謝ること」
「はい……」
しゅんと背を縮めてしまったニコラスに、メアリは「よろしい」と満面の笑みで頷く。少女と同じ銀髪の、青年の前髪を手でよけて額に親愛のキスを送った。
「さ、朝食しっかり食べなさい。今日も張り切って仕事してらっしゃいな!」
ニコラスは不自然に身体を強張らせ、頬をうっすらと染めた。その様子にメアリはきょとんと首を傾げる。
「どうしたの、ニコラス?」
「……いえ、何でもありません。ありがたくいただきますよ」
誤魔化すようにメアリに軽くハグをして応えつつ、小さなため息が知れず零れるのだった。
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