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「雨の日になるとね、お母さんが来てくれるの」
少女はいつも、周りの人達に言っていた。
少女は、逆さのてるてる坊主をお守り代わりに持ち歩いている。雨が降り、母といつも話せるように、おまじないを込めているのだ。
少女の母親は既に他界している。
そのことを知っている周囲の人達は、少女は肉親を亡くした悲しみを誤魔化すためにそんなことを言ってるのだろうと、憐みの視線を向けて少女と接していた。
ーーだが、一部の人間は、少女の言葉が嘘では無いと知っている。
ある日、クラスメイト達が少女をからかい、本当に母親が来るのか確かめようとした。
梅雨も差し掛かる時期。少女は嬉しそうに、母の形見である赤い傘を持っていき、母が眠る墓場までクラスメイトを案内した。
「お母さん。今日はね、お友達を連れて来たよ」
少女は墓の前で、傘を差し出しながら笑顔で言う。
「ーーーーーーーーー」
直後、どこからともなく黒いもやで覆われた女性が現れた。
「……!!」
余りの出来事に呆気に取られるクラスメイト達を尻目に、黒い女性は少女に言葉をかける。クラスメイト達は、何を言っているのか聞き取れなかった。
「うん、そうだよ。お母さんを見てみたかったんだって。だから連れて来たの」
だが、少女は違った。黒い女性と楽しそうに会話をしている。その間、黒い女性は赤い傘を開き、少女が濡れないようにしていた。その行動は子を守る母そのものだった。
「……!!!」
呆気に取られ、棒立ち状態のクラスメイト。
そんな彼らを、黒い女性は振り返った。もやがかかり顔など見えないはずなのに、はっきりと目があった感覚がした。それは底冷えするほどの怒りが込められ、少女をからかった罪を見抜き、見透かされているようだった。
「うわあああ!!」
恐怖に耐え切れず、クラスメイト達は一斉に逃げ出した。
走り去っていく彼ら。
その背中を見送る少女。
「みんなどうしたんだろう。お母さんに会いたいって言うから連れて来たのに」
「ーーーーー」
「あ、うん。そうだね。今日もいっぱいお話ししよ」
その日以来、二人の邪魔をするものはいなくなった。
少女と母のやりとりは、少女が大人として独り立ちするまで続いた。
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