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“ペコン”
大学構内の中庭のベンチ。
オレの隣に座る恵里菜のスマホのメッセージアプリが、新着メッセージ受信を知らせた。
恵里菜はオレに見えない角度でさりげなくスマホの画面を確認すると、何事もなかったかのように、そのスマホを自らの横に置いたバッグの中に滑らせた。
そして、その自らの動作の意図をまるで自分に言い聞かせるかのように、瞬きを一つすると、再び話し始めた。
「裕也、ゴメンゴメン。話、途中だったね。なんだったっけ?」
オレはその恵里菜の表情から、今この瞬間だけは、恵里菜にとって自分が何よりも優先されたことを感じ取り、幾分ホッとしながら、話を戻した。
「ん、あー、孝宏から電話があったって話。
突然電話してきたかと思うと、“会社の上司が俺のことを分かってくれない”とか、グチ言い出すし。
てか、アイツ何考えてんだろうね」
孝宏とは、オレと恵里菜の高校時代の共通の友人の一人。
高校卒業後、近くのメーカーに就職して働いている。どうやら新しく来た上司とうまくいってないらしい。
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