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そんなガキ大将をやっつけるのは、いつも千鶴の役目だった。今でも身長170cm以上ある千鶴だが、それこそ小学校の時点でかなり成長が早かったのである。三年生なのに中学生と間違えられたこともあったほどだ。もとより、小学生の時点では女の子の方が体が大きくて力が強いなんてことも珍しい話ではない。
特に武道の心得があるわけではなかったが、持ち前の正義感でいじめっ子と戦うことが少なくなかった千鶴。恵まれた体格もあって、喧嘩で負けたことも皆無だった。“小三男子にしては体が大きい”ガキ大将どもも、千鶴にかかればいちころである。あっという間に地面を抱いておねんねし、あるいは泣いて敗走するのが常だった。
そう、小学生の時の千鶴は、いじめられっ子だった遥を守る立場にあったのである。
『ごめん、ちーちゃん。いつも助けて貰って、ほんとごめん』
そんな千鶴のうしろで、遥はいつも泣きじゃくっていた。
『僕が弱いせいで、本当にごめん。また、またちーちゃんが先生に呼び出されて叱られちゃう……』
『馬鹿野郎、そんなん気にすんなって!私が許せないからあいつらをぶっ飛ばしてる、それだけなんだからよ!大体悪いのはあっちだ。いっつも弱いもの虐めしやがって!許せねえ!』
『ちーちゃん……』
千鶴よりずっと小さくて、華奢で、ついでに体も弱かった遥。クラスメートの男の子というより、弟に近い存在だったように思う。自分が彼を守ってやらなければ、という使命感にかられていた。いや、きっと遥でなかったとしても自分は助けていただろうが。どちらかというとあの頃の千鶴は、“弱いやつを守る正義のヒーロー”に心酔してそのようなことをやっていたフシがあるのだから。
『なんで、いつもちーちゃんはそんなに強いの?あいつら、力も強いし……それに先生に怒られるのだって怖くないの?』
恐る恐ると言った様子で告げてくる遥に、千鶴はきっぱりと“怖くない!”と返したのを覚えている。
『それよりも私は、自分が自分でなくなることの方が怖いよ。間違ったことを間違ってるって言わなかったら、びびって口を噤んだら……それはもう私じゃない。誰になんと言われようが、私は私が正しいって思ったことをやってるんだ。だから、後悔なんかぜってーしねえ!堂々と胸張って生きていけば、それでいいんだよ』
『……そっか』
『だからさ、遥も気にするなって。お前は何も悪いことなんじかしてない。その宝石みたいな青い瞳も、いろんな知識を知ってるところも私はすっごくいいと思う。自分を信じられないってなら、私を信じろ。それでどうだ?』
『う、うん』
彼はうっすらと頬を染めて告げたのだった。どこか、目を潤ませながら。
『そうだよね。……うん。ちーちゃんがそう言うなら僕……信じてみることにする。ちーちゃんのこと』
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