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「何度見ても信じられん……」
千鶴は、握手会の会場で手渡された名刺を見、パソコンの画面を見、壁に張ったサイン色紙を見たのだった。
あの、大人しい眼鏡っ子と、今動画の中で笑っている青年が同一人物とは。にわかには信じられない。いや、笑った時の顔なんかには、確かに面影がないわけでもなかったけれど。――髪の毛を染めてしまったせいで、余計分かりづらくなっているのだろうか。
『皆さんこんにちは!レイヤードです!今日はリクエストがあった……このホラーゲームを実況させていただこうと思います!ちょっと皆さん、俺が怖いの苦手なのわかってますよね?わかってるのにこういうリクエストしてくるんですよね!?絶対ドSじゃないですかもー!……ちょっと、悲鳴が可愛くて最高ですとかコメントしてるの誰ですかあ!?』
二分割された画面の半分にレイヤードの顔が映り、半分にゲーム画面が映っている。彼のユーチューブでも特に人気の動画シリーズ、“惑いの森実況シリーズ”だ。惑いの森、という人気フリーゲームの実況動画である。レイヤードは新鮮な悲鳴を聞かせてくれるキャラクターとしても人気が高いらしく、ゲームの中でもホラーゲーム実況をリクエストされることが多いと知っている。
この惑いの森シリーズ、実はもう何週も見返していたりするのだ。オバケやビックリがあるたび、きゃいきゃいと可愛い悲鳴を上げてくれる様がなんとも乙女心をくすぐるのである。それでいて、台詞を読む時は最高のイケボを披露してくれるし、アクションは得意なのでプレイ動画としてはさくさく進むのも魅力的だったりする。
『あの、今俺、このマンションに住んでるんです。それから、これ、メールアドレス。よかったら連絡ください』
サイン会の折に、こっそり渡された名刺。彼はそれに、現住所とプライベートの電話番号などを書き添えて千鶴に渡してくれたのだった。
『久しぶりにちーちゃんと話したい。……よろしくお願いします』
――本当に、遥なんだ。あのあと……こんなに頑張って、立派な大人になったんだ。
推しが幼馴染だった、なんて出来すぎな気がしないでもないが。この時の千鶴はそれ以上に、嬉しい気持ちでいっぱいだったのだった。
多くの学校を点々としてきた上、遥とは年賀状のやり取りさえしていなかったのである。あの可愛い少年がここまでオトナになったかと思うと、やはり感慨深かったものだから。
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