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<2・これって本当に現実ですか?>
千鶴がどれだけレイヤードという実況者に入れ込んでいるか。
これに関しては見た目では説明しづらいところがある。投げ銭というシステムこそあれ、ユーチューバーという職業の相手ではわかりやすくグッズを買って投資することができないからだ。
そもそも今回のように、握手会とサイン会をやってくれるなんてそうそうない。これだって人気ユーチューバーとなった彼にとある出版社からエッセイ出版の話が来てめでたく発売されることになったがゆえ、その記念で行われたものなのだから。
アイドルならばライブがある。
アニメのキャラクターや漫画の作者なら本や円盤を買えばいい。
しかし歌い手をやっているでもなく、ただコツコツとゲーム実況をメインに活動してきた彼には、彼を直接応援できるグッズもなければ会いに行ける機会もないのだ。先日の握手会だって、受付開始直後に予約が殺到し、あっという間に整理券分が完売してしまったと聞いている。ようは、千鶴はめちゃくちゃ運が良かったと言っていい。
発売記念サイン会は東京と大阪で一回ずつのみ。次がある保証はない。
顔は公表しているし声も知っているけれど全て動画越し。毎日動画は見るけど部屋が彼のグッズで埋まっているなんてこともなし。それが、千鶴が推す人気ゲーム実況者、レイヤードという人物のすべてだったのだ。
ユーチューブは、ただひたすら推しの動画を回すだけで相手の収益になる。高評価もチャンネル登録も無料で行える。彼らへのファンの貢献は、お金ではっきり見えるものではない。――こうして考えると、なかなか不思議なシステムだと思う。
「うわ、やっぱ難しいんだ、“惑いの森”って」
翌日。朝起きて動画の続きを見ながら千鶴は呟いた。パソコンの前で朝食のおにぎりを齧りながら推しの動画を見るという、まさに至福の時間である。
別窓でなんとなく、ホラーゲーム“惑いの森”の攻略サイトを見てみたのたが――これがまあ、“鬼ムズ”という声ばかりだ。正確にはモードがいくつも別れているので、イージーモードなら素人でもクリアはできる。しかし、ノーマル、ハードと上がっていくにつれ主人公を遅い来るお化けの数が増え、難易度が跳ね上がっていくことになるのだ。
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