<2・これって本当に現実ですか?>

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 小学生の時の記憶通りなら、彼はけして社交的なタイプではなかったはずだ。いつも大人しく教室で本を読んでるタイプ。喘息があるとかで、具合を悪くして休む日も少なくなかった。体育の授業を見学していることも多かったはず。――それもあって、ガキ大将どもには虐められてしまってきたのだろうが。  縁の下の力持ちで、掃除を頑張るとかポスター作りを手伝うとかは得意だった記憶がある。でもけして、人前に立つような仕事をするキャラではなかった。グループで班長をやることさえ避けていたのではなかっただろうか(それは肝心な時に本人が学校を休んでしまうかも、という配慮もあったのだろうが)。  そんな彼が、今や押しも押されぬイケメンユーチューバーである。まだ上には上がいるが、いずれ日本で一番人気のユーチューバーになるのでは?なんてことを言う人もいるほどだ。千鶴は彼の小学生時代の一時期しか知らない。ひょっとしたら中学や高校、大学で彼の性格を変える何かがあったのかもしれない。 「おっと」  おにぎりを食べ終わったところで、私は見終わった動画を閉じた。続きも気になるが仕事をしなければなるまい。私がやっているライター業務は、一ヶ月に何件の記事を書けたかどうかで収入が決まってくるのだ。普通のオフィスワーカーのように会社に行かなければいけない日はないし通勤時間などの無駄もないが、サボればサボるだけ自分の収入が減っていくのは避けられない。  ようは、上手な時間のやりくりが求められるのである。朝ご飯を食べたら仕事モードに切り替えなければいけない。まずは、仕事用メールのチェック。提出した記事が差し戻されることもあるし、修正依頼をされることもある。それらをクリアしない限り納品したことにならないのだ。  ちなみに修正依頼の内容は“ちょっとした誤字脱字”から、“書いたらヤバイ表現の修正”“出典元の情報が危ういので一部差し替え依頼”など多岐にわたる。特に厄介なのが、出典元情報が間違ってるから直してくれというやつだ。千鶴たちライターはネットで調べた情報を元に記事を纏めていくのだが、場合によってはその情報そのものが誤っているケースがあるためだ。 ――修正依頼は来てないな……と。  あ、と思わず声を上げていた。  昨日の夜送ったレイヤードへのメール。彼が名刺に書いていたアドレスから、返信が来ているではないか。
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