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<1・振り向いたら推しがいる!>
人気ユーチューバーにしてゲーム実況者、レイヤード。
チャンネル登録者数は数百万人に上り、動画の中には億単位の再生回数に到達したものも複数。声優さながらの活舌の良いイケメンボイスと、女性のような繊細な美貌でファンたちを魅了し続けている。
まるで良いところのおぼっちゃんのような、上品な雰囲気や博識っぷりも魅力のひとつ。男性ファンもいないわけではないが、彼のファンはやはり女性が圧倒的多数を占めることだろう。
数年前から彼の動画を追いかけてきた一人、向井千鶴。WEBライターをして生活している千鶴が、彼の握手&サインイベントに足を運んだのは必然だろう。今までライブなどで遠くから見つめるしかなかった推しが、東京でイベントを開催してくれたのだ。そりゃ、応募しない理由もあるまい。
そう、この時の千鶴は、推しを追いかける熱狂的なファンの一人にすぎなかった。WEBライターという仕事上、基本的に仕事はすべて自宅で行っている。時間の都合のつきやすい。平日の昼間に、イベント会場に足を運ぶこともけして難しくはなかったのだった。
――あああああああああ、楽しみ、超楽しみ!ナマの推しに会える!神様、私は生まれてきて最高に幸せですっ!
レイヤードについて公表されていることは多くはない。
千鶴と同じ、二十七歳であること。東京在住であること。かつて声優の養成所に通っていたせいで、めっちゃくちゃ良い声の持ち主であること――ただそれだけである。
だから気づかなかったのだ。むしろ、気づくなんて不可能に近かった。遠い昔に出会った彼とは、あまりにも変わりすぎていたものだから。
「サインの名前はどうしますか?」
ニコニコ笑顔で尋ねてくるレイヤード。銀髪に染めた髪がキラキラ光っている。千鶴はうっとりしながら、“向井千鶴でお願いします”と言ったのだった。
その途端である。
「え」
レイヤードの目が、まんまるに見開かれたのである。サイン色紙と千鶴を交互に見て、それから。
「ひょっとして……ちーちゃん?」
「……え?」
「お、俺だよ!小学校の時に一緒だった、遥!虹村遥!」
「え、えええええええええ!?」
推しユーチューバー、レイヤードの正体が。まさかの小学校の時の幼馴染、虹村遥クンでした。
いや、本当にあるんだろうか。こんな少女漫画みたいなことが!
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