2. 遅すぎる謝罪

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「肉まんはないですね。あんまんとピザまんはありますけど」 『あん……は饅頭のことだろ? けど、ピザまんってなんだ? ピザが入ってるのか?』 「いえ、ピザそのものが入っているのではなく、トマトソースとかチーズとか、ピザに寄せた具材が入ってるんです」 『美味いのか、それ?』 「私は好きですけど……。他のものにします? パンとかおにぎりとか」 『いや、そのピザのやつにする。それ買ってきてくれ』 「かしこまりました」  どうやら将斗はピザまんを食べたことがないらしい。七海の説明に最初は困惑の声をあげる将斗だったが、結局好奇心が勝ったようで、最終的にはピザまんを所望された。  将斗の要望に『なるほど』と内心納得する。御曹司という生き物の中には、コンビニの中華まんを食べたことがないまま大人になる者も存在するようだ。もうすぐ丸四年の付き合いになる将斗の新たな発見に驚きつつ、視線をホットスナックの商品ケースからサンドイッチが並んだ冷蔵棚に向ける。 「他には何か……」 「七海!」  そのまま追加で必要なものを尋ねようとした七海だったが、ふと反対側――会社側の入り口付近から、誰かに声をかけられた。  突然名前を呼ばれたことに驚いて振り返った七海の身体が、ビクッと硬直して停止する。そこに立っていたのは、約二か月ぶりに対面する元婚約者……逃げた花婿の慎介だった。 「え……? 慎介、さん……?」 「やっぱり、七海だ」  ちょうど退社するタイミングだったのだろう。コートを着込んでビジネスバッグを手にした慎介には、最後に見たときより幾分か疲れた印象があった。しかし以前より身なりは整えられているし、極端に痩せたり太ったりした印象はない。
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