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だが代わりに見つめ合った将斗の表情が拗ねた子どものように不満げだったので、七海もそれ以上慎介に情けをかけることは諦めた。
「両親と新しい恋人に感謝しろよ、佐久。今後おまえを助けてくれる〝大事な人〟を見誤るな」
「はい。……失礼します」
七海の代わりに将斗が声をかけると、一言だけ残して踵を返した慎介がエントランスホールからふらふらと外へ出ていった。
――慎介と、完全に決別した。
だから慎介のことはもう忘れる。七海を捨てて傷つけた男のことなどもう思い出さない。考えなくていい。
その代わり、七海に抱きついてずしりと体重をかけてくるこの大型犬のような上司を早急にどうにかしなければならない。
「あ、あの……社長、ありがとう、ございます」
「本当にな、心臓止まるかと思ったぞ」
「ごめんなさい。えっと……とりあえず社長室に戻りましょう。今ピザまん買ってくるので……」
「ばーか、そんなのどうでもいいよ」
将斗の腕から逃れてコンビニへ引き返そうとする七海だったが、その直前で腕を引っ張られて身体を引きずられた。進行方向と反対側に力を加えられた七海は、もつれそうな足を必死に動かしてどうにか将斗の動きについていく
「残業は明日にするぞ」
「え、でも……」
「次に野々宮に行くのは、再来週だろ? 大丈夫だ、明日朝イチでやれば午後には各部署に指示も出せる」
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