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花婿がどこかへ消え、しかも戻って来るつもりがないとわかりきっている以上、残された花嫁が一人でこの事態を収拾する他ない。この場に一人置き去りにされるという惨めな状況を理解していても、七海までここから逃げ出すわけにはいかない。
(このあとの披露宴、どうしよう……)
視線を落としてぐるぐると考える。
披露宴には七海の友達も、慎介の友達も、もちろん職場の人もたくさん呼んでいる。今からすべてキャンセルしたとして、二人のためにやって来た人たちに、どういう説明をしてなんと謝罪すればいいのだろう。どんな顔をしてこの事態を伝えればいいのだろう。
否、そもそもキャンセルなど出来るのだろうか。費用はもちろんのこと、この日のためにお願いしているホテルや式場のスタッフや業者のことを考えれば、この土壇場でキャンセルなどできるはずもない。
泣きたい気持ちを懸命に堪えて、それでもどうにか顔を上げる。すると目をまん丸にして呆然とこちらを見つめる父と、着慣れない留袖の袖で口元を覆ってわなわなと震えている母の姿が目に入る。
(お父さん……お母さん……)
なんという親不孝をしてしまったのだろう、とひどい後悔に苛まれる。
もちろんこの晴れ舞台を台無しにした一番の原因は慎介と愛華にあるが、この状況を想定して未然に防げなかった責任は七海にもある。
少なくとも慎介ともっとちゃんと話し合いをしていれば――彼の気持ちを理解していれば、こんなありえない事態は回避できたはずだ。
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