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2. 二人目の乱入者
新婦のゲスト席から立ち上がった人物を視界の端に捉えた瞬間、息を吸いかけていた七海の呼吸が止まった。
「えっ……」
発する寸前だった言葉が間抜けな声に反転する。だがその男性に七海の困惑を気にする様子はなく、中央の通路に歩み出ると、バージンロードの上を進んで悠々とこちらへ向かってくる。
少し光沢のあるブラックのスリーピーススーツとよく磨かれた黒い革靴だけは、七海もあまり見慣れない。けれど普段と違うのは服装だけで、左サイドを後ろに軽く流した髪型も、すこし釣り上がった目も、すっと通った鼻筋も、形が綺麗な口元も、もちろん凛としてよく通る声も、いつもと同じ。
「社長……?」
七海が毎日、慎介や稔郎よりも多くの時間を共にしている相手。秘書として付き従っている上司。
我が社の顔ともいえる若き社長、支倉将斗が、優雅な足取りで七海の傍へと歩み寄ってくる。
将斗の足の長さなら約十歩の距離が、あっという間にゼロになる。そうして目の前に立った将斗が、突然のことに困惑して硬直する七海に――否、この場にいる全員に、思いもよらない宣言をする。
「柏木が佐久と結婚しないなら、俺がする」
将斗は低く深みのある声質だが、普段の話し口調は至って穏やか――むしろ軽々しいと思うほどだ。しかしたまに大きな声を出すと身体の芯に響くような重さを感じられるので、秘書として常に傍に身を置く七海でさえ少し驚いてしまう。
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