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その珍しく大きな声で高らかに告げられた言葉に、びっくり仰天して高身長の将斗をぽかんと見上げる。
「え……っと? 社、長……?」
だが七海と目が合った将斗は、にやりと口角をつり上げて微笑むのみ。驚きに瞠目して動けなくなった右手を掬いとると、おもむろに身を屈めて顔の位置を下げる。
将斗の唇が白いグローブ越しに七海の手の甲に寄せられる。そして音もなく口付けを落とした将斗が、視線だけでじっと七海の顔を覗き込んでくる。
「柏木。俺と結婚してほしい」
ゆっくりと――けれど確かに紡がれた求婚の言葉と将斗の熱い視線に、どくんと心臓が跳ねる。しかし驚きすぎて彼の言葉の意味はスッと頭に入って来ない。ただ困惑するだけで、声の一つも発せない。
固まって動けなくなった七海にフッと笑みを残すと、一度視線を外した将斗が、新郎席の最前席に座る一組の男女に視線を向けた。
「構いませんよね、佐久さん?」
彼らは先ほど七海を置き去りにしてこの場を立ち去った佐久慎介の両親、新郎の父親と母親だ。
突然話題を振られた慎介の父がオロオロと視線を彷徨わせる。慎介の母も驚いて硬直している。土壇場になって息子が挙式の舞台から逃亡し、しかも事情を一切聞いていなかったとなれば、当然彼らも困惑の真っ只中にいることだろう。
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