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冗談だと思うに決まっている。今この瞬間が何のための時間なのか、この挙式のためにどれほどの準備期間と労力を費やしているのか、彼女にはわからないのだろうか。同じ女性のはずなのに、晴れの舞台に水を差す意味を理解できないのだろうか。
そもそも、彼女は慎介とどういう関係なのだろう。披露宴からではなく挙式から招待しているとなれば、相当の親交が深い仲のはずだ。
もちろん七海自身が招待したゲストについてはしっかりと把握しているが、慎介が招待した相手までの顔と名前は完全に一致していない。最後に確認した挙式の参列者リストを頭の中に用意した七海だったが、その中身を確認する前に慎介が七海の前から一歩後退した。
「七海、ごめん。……俺、自分の気持ちに嘘はつけない」
「は、はい……?」
慎介がふと放った一言に、七海の思考は完全停止した。
ぽつりと呟いた驚愕の台詞に目を瞬かせる。だが慎介の発した台詞はまったく頭に入ってこない。ぜんぜん、理解ができない。
「俺やっぱり、愛華ちゃんが好きだ。だから七海とは……結婚できない」
「ちょ……え? ちょっ……!?」
そう言ってくるりと踵を返す慎介の姿に、全身からサッと血の気が引く。
「まってまって、どういうこと!? 全然、意味がわからない……!」
白いドレスの中で足が震える。いつも履いているヒールより少し高さがあるせいか、下半身にぐっと力を入れていないとそのまま力が抜けて崩れ落ちてしまいそうになるほど。
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