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澄んだ目できっぱりと謝罪をされても困る。
七海には彼が何を思っているのか、何を言っているのかまったく理解できない。
付き合い始めて一年、プロポーズされてからは半年という期間では、お互いを理解するには短すぎたのだろうか。愛を育むには時間が足りなかったのだろうか。
「愛華ちゃん……!」
「慎介さん!」
七海が途方に暮れているうちに、七海の傍を離れた慎介がゲスト席の後方へ辿り着く。等間隔に並んだ長椅子の隙間から転がり出てきた愛華の手を取ると、お互いじっと見つめ合う。そのまま微笑み合ってチャペルの扉から出て行ってしまう二人を制止しようと口を開きかけるも、七海にはかけるべき言葉が紡げない。
――結婚の実感なんて、湧かないに決まっている。
きっと慎介は、最初からこの結婚に乗り気じゃなかった。なぜなら愛華の手を取った瞬間に彼が見せた幸せそうな笑顔は、七海には向けられたことのないものだった。
付き合って一年、プロポーズをされてから半年の間、彼はいつも優しい笑顔を浮かべていた。けれどどこか他人行儀な印象があって『結婚式の準備なら俺がやるよ』『仕事が大変なら無理しなくていいよ』と、必要以上に七海を気遣うような素振りばかりだった。
(慎介さんはやっぱり、出世のために私と付き合ってたのかな……)
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