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雨。泥まみれのユニフォーム姿のまま、俺はいつもの橋へと向かう。
欄干に手をかけて黄昏ていると「よっ!」と呼ぶ声がした。いつ現れたのか、俺と同じ体勢のお姉さんが隣に立っていた。
「今日はどんな雨が降ってるの?」
あの日から何十回と繰り返されてきたお決まりの問いかけに、力無く答える。
「今日、野球部引退してきた。してきたっていうか、そうなっちゃったんだけどさ」
「それって、」
「うん。全国には進めなかったよ。あと一勝だったんだけどなぁ」
「そっか……悔しいね、あんなに頑張ってたのに」
お姉さんはそう言って、本当に悔しそうに顔を歪めた。
この3年間、部活の練習が辛くてお姉さんに泣きついたことは数知れない。
「しかもさぁ、雨天コールド負けだったんだ。最終回、5点差を逆転して、あとは裏の攻撃を抑えるだけだったのに」
「それは……辛いね」
「あーあ。やっぱり雨は嫌いだな」
吐き捨てるように言うとお姉さんは複雑な表情を浮かべた。その顔を見て、無意識のうちに昔のことまでも掘り返す言い方をしてしまったことに気付く。
気を遣わせてしまっただろうか。
「雨が嫌いって、それは空の方? それとも心の方?」
少し間をあけてお姉さんが尋ねた。
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