雨に祈れば

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 人々は雨を呼ぶ言葉を繰り返しながらレインスティックを揺らしていたが、ひと粒の雨がぽつりと落ちたとたん、あたりはシーンと静まり返った。  一斉に静かになるその様子に僕は神の存在を感じた。  全員がたったひとつの雨粒を見逃すことなく同時に静かになるなど神秘を感じる。  静かに降り出した雨は、すぐに叩きつけるような大雨へと変貌した。  その大雨の中で彼らは、何時間も地面に頭をつけ神に感謝の祈りを捧げ、雨を忘れた他国の人々の代わりに許しを請う。  空をひっくり返したような雨は一昼夜続き、徐々にまた静かな雨になっていく。  ここでは同じような雨が数か月に一度降るらしい。  雨が静かになると同時に人々は歌い、踊り、楽器を鳴らし始めた。  食事もふるまわれ雨のやむ日まで何日も祭りは続く。  この雨の中にいるとそのありがたみがわかる。  雨の香りや冷たさに、生きている実感を強く感じた。  雨による自然の変化の美しさも素晴らしかった。  ここでは災害レベルの雨が降ったとしても、それも運命と神に感謝するらしい。  そこまで自然にすべてを任せるのが正しいとは思えないが、雨は確かに必要なのだと言わざるを得ない。
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