雨に祈れば

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 雨が降らなくなってもう五十年になる。  空気中から水分を取り出すことができるようになり、雨は不要とされ降らなくなったのだ。 「雨も悪いことばかりじゃなかったんだけどねぇ」  空を見上げながらばあちゃんが言った。  大雨には困ってしまうが、なくなってしまうと寂しいものだという。  思い出に浸るばあちゃんを見て僕は雨を見てみたくなる。  雨を体験する施設には行ったことがあるが、ばあちゃんは機械的に降らせた水なんて雨じゃないと言う。  ばあちゃんは懐かしそうに空を眺めていた。  そんなばあちゃんが突然この世を去ったのは昨月の終わりのことだった。  両親が早くに亡くなり、ばあちゃんに育ててもらった僕は、ばあちゃんの家で遺品整理をしていた。
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