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もしかして……。
だから……。
カンタくんはずっと……。
いつもの公園へ行ってみたけれど、その姿は見当たらなくて。私は日が暮れても尚ずっと見えないその姿を探し続けた。
だって知らなかった。カンタくんが私の亡くなった弟だったってこと。いつもひとりだった私のことを心配してあの日、声をかけてきてくれたってこと。
そして、その姿が君を知る誰かに見られてしまったら消えてしまうなんて――私は考えもしなかった。
「カンタァー! ねえ、どこにいるの? お願いだから返事をして! カンタァッ……!」
ごめんなさい、カンタ。
ありがとう、カンタ。
大好き……大好きだよ。
だけど、どれもまだ伝えられていない。私の伝えたかった言葉をまだなにひとつ、君に伝えられていない。だからお願い、カンタ。最後にもう一度だけ私の前に現れて――……。
私は泣きじゃくりながら帰路についた。公園はもう街灯がついていて、夏なのに夜風が冷たく感じた。
そして私は最後にカンタと遊んだ場所へと向かった。そこには少し上手くなったクジラみたいな絵と“だいすき”と彼が書いたであろう文字があった。
「カンタッ……うっ……うわあああん」
私の泣き声は夏の広い夜空に吸い込まれていった。そのあとお母さんが迎えに来て私を連れて帰ってくれたけど、私はずっと涙が止まらなかった。
「どう、少し落ち着いた?」
お母さんは私を抱きながら優しく声をかけた。
「ねえ、カンナ」
「なに……?」
「久しぶりにこれ読もうか」
「あ、この絵本……」
「そう。カンナの大好きな本よ」
「お母さん……これ、カンタも好きだって言ってたの。読んだことないはずなのに」
お母さんはそのあと目頭を抑えながら唇を噛み締めた。だけど涙はポロポロと溢れて絵本のクジラの上に落ちた。
「カンタがね……お腹にいた頃、あなたと一緒によく読み聞かせていたのよ。嬉しい……覚えてくれていたのね、あの子」
そして私は腑に落ちた。大好きな本だと言っていたわりに、上手く描けなかったあのクジラの絵。彼はこの本を見たことがなかったから。だから上手く描けなかったのだ。
私と楽しそうに絵を描くカンタ。その姿を思い出すと私もまた涙が出そうになった。
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