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プロローグ
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20XX年。プロ野球界ではAIによるデータ分析、戦術構築が主流となっていた。
これまで蓄積された膨大な量の試合スコア・映像データから一々のプレー結果を予測、その場における最適な指示をサインという形式で出力することで、人の判断で指示を下していた先の時代と比べて戦術成功率は飛躍的な成長を遂げた。
一方その代償として、選手はAIの描いたシナリオに従うだけの無機質な駒と化した。
この打者に対するこのカウントでは、この変化球をこのコースに投げろ。
この試合展開、この局面の守備ではこのポジショニングをとれ。
この点差、この相手投手の時は一球見逃せ。たとえどんなに打ちごろな球が来たとしても。
そうした指示に従順であることが選手の至上命題であり、個人の色を出すことは背信行為として徹底的に叩かれた。
もちろんそれは選手に限った話ではない。コーチも、そして監督でさえ、ただAIの言葉を伝言ゲームのように選手や審判に伝える傀儡でしかなくなっていた。
皆がAIの意のままに動き、当然結果もAIの予測通り。
もはや試合の勝敗すらAIの掌上に等しい。
かといってAIに逆らえば、今度は目の前の約束された勝利までも取りこぼすリスクを負うことになってしまう。
だから結局、AIに従うことこそが勝利への近道なのだと誰もが信じ、疑いもしなかった。
そんな時代。
しかしここに、真っ向から時代の流れに歯向かうはぐれ者監督が一人。
「俺が若い頃、野球は『筋書きの無いドラマ』って言われてたんだ。いつから筋書きの決まった三文芝居に成り下がったんだ?」
決してAIに縋ることなく、経験や勘を頼りに采配を振るうその姿は人々から「壊れた機械」と揶揄され、野球の進化を認められず価値観をアップデートできない愚将と評された。
これはそんな彼が彼の信じる「野球」でAIに抗おうとした、とあるシーズンの物語。
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