はぐれ者。奥寺武史

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はぐれ者。奥寺武史

 監督椅子の背もたれに身を預け、俺は大きな溜息を吐いた。  手には明日の試合のメンバー表。書いては破り破いては書き、すでに5枚目に突入してしまったそれが、苦悩の深さを端的に表している。  勝てるオーダーが見当たらない。どいつもこいつも、自分の意志を持たぬ腑抜けばかりだ。  昨日の試合だってそうだ。  7回の満塁場面。俺は4番・山瀬に「好きに打ってこい」と伝えた。  山瀬となら心中しても構わない。山瀬なら、きっと予想もつかないような何かを起こしてくれる。そう期待したからだ。  だが結果は見逃しの三球三振。ベンチに戻って来た野郎は、平然と「AIが待てのサインだった」と抜かしやがった。  相手投手が普段通りならそれが正解だったかもしれない。  優れた球威を持つ反面、制球が定まらない暴馬。だけどあの場面の奴は押し出しを恐れ、球威を捨てた棒球をど真ん中に置きにきていた。  それこそ、AIの指示でこちらがバットを振らないことを知っていたかのように。  開幕前にAIが算出したシーズン成績予想で、我ら東京モンキーズは全6チーム中5位だった。  現在、モンキーズの順位は5位。まだシーズン序盤だが、このままいけば何の波乱もなくAIのシナリオ通りに終わるだろう。  なぜならウチを含めた全チームがAIに従っているから。  こんなものはただの出来レース。いや、野球のフリをした三文芝居だ。断じて野球じゃない。
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