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目が離せなくなる。そして、一歩も動けなくなる。やがて、水滴は透明から赤へと変わり、血のように、ポトリ、ポトリ。
わかっている。おれが悪いのだとわかっている。
あの日、おれはわざと傘を忘れた。否、持っていかなかった。雨が降るから傘を持っていきなさいよと言うかあさんの忠告を無視して、わざと。
小学校に入学して約二ヶ月。おれは学校が苦手だった。赤ん坊の頃から手のかかる子どもで、かあさんと離れるのをとてつもなく嫌がったそうだ。だから、保育園でも幼稚園でも、おれは泣き喚き、かあさんが迎えに来るまで泣くのをやめなかった。
泣きやまなかったわけじゃない。泣くのをやめなかった。そうすれば、かあさんが迎えに来てくれると知っていたからだ。
小学生になってからは、さすがに泣き喚くことはしなかったが、いつも、いつだって、雨が降ればいいと思っていた。雨の予報がでる日は、決まって傘をわざと忘れた。そうすれば、かあさんが迎えに来てくれると思ったから。
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