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あの日、おれはかあさんを一時間待った。でも来なかったから……だから、おれは……ランドセルに忍ばせていた折り畳み傘をさして家に帰った。
そう。おれは、いつも折り畳み傘を持っていた。もしかしたら、かあさんが迎えに来てくれないこともあるかもしれない。そんな日だってあるだろうと。おれは、濡れて帰るのが嫌で、雨の降る日は必ず折り畳み傘をランドセルに入れていたのだ。
雨が降ればいい。
雨が降れば、かあさんが迎えに来てくれて、かあさんの赤い傘にいれてもらえる。
だから、いつもいつも雨を願っていたくせに、濡れるのは嫌だからと姑息にも折り畳み傘をランドセルに忍ばせていたのだった。
おれが、かあさんを殺した。
おれのせいで、かあさんは死んだ。
シンクが真っ赤に染まっていく。
「──ぼくならいいんだ……かあさんの」
「おおきなじゃのめに……はいってく」
おれの歌に合わせ、蛇口から水滴が落ちて、跳ねる。
ぴっちぴっち
ちゃっぷちゃっぷ
「らんらんらーん」
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