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これは夢だとわかる。
なぜなら子どもの時の自分が見えるからだ。ざあざあと雨が降っている。おれは真新しいランドセルを担ぎ、学校の出入口でかあさんを待っている。
おさない日の記憶。
六月の雨は気まぐれで、朝はカラリと晴れていても、帰る頃には雨が降っていたりする。じめじめと湿った空気。ひやりと冷たい温度。黒いランドセルがやたらと重い。
これは夢で、おれはそれを客観的に見ているのに、ランドセルの重みや空気の質感がやたらとリアルだ。夢だとわかっているのに、どうしておれは目を覚まさないのだろう。
おれのほかには誰もいない。ぽつんとひとり佇んでいる。迎えに来ると約束はしていないのに、おれは、かあさんを待っている。待っていれば来る。不思議とそんな確信があった。
どれくらい待っていただろうか。雨で真っ黒に染まったアスファルトとは対照的に、血のように赤い真っ赤な傘が近付いてくる。かあさんだ。
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