探して、あげないと。探して、あげないと。探して、探して、探して。あげないと。

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探して、あげないと。探して、あげないと。探して、探して、探して。あげないと。

   4歳の夏、私は。  市民プールで溺れた。 ●  はしゃいで飛び込んだだろう、足のつかないプールの中で必死で飛び跳ねて、水面から顔を出し呼吸をしていた。  子供を浮き輪に乗せて、通りがかる女性。  年上の子供達。  家族連れ。  皆、私が遊んでいると思ったのだろう。助けて、と最後まで言えずに何度も浮いては沈む。  必死に伸ばした手は、そっと振り払われ。注目されることもなく。そのうちに、プールの底を蹴る力も弱くなっていった。  何故か、溺れている最中に脳裏をよぎったのは。子供がプールで溺れるという見出しの新聞記事だった。 ●  顔を充分に水面に出す事もできなくなった私を助けたのは、浮き輪を抱えて必死に手を伸ばしてくれた五才上の兄、怜二だった。怜二は抱え上げた私に浮き輪を被せ、プールの中を進んでは何度も振り返った。  不安そうな顔。  安心した顔。  じゃれついて、ため息。  そして、笑う。  私は不思議に泣く事も騒ぐ事もなく、怜二と何度も視線を合わせては安心し、浮き輪の上できらきらと輝く夏の太陽をぼんやりと見上げていた。 ●  プールから上がり、父と義母から『ウロチョロしない!』と怒られた私。  そんな私が溺れ、自分が助けた事を言わずにジュースを飲んでそっぽをむく怜二。  自分の過ちへの、苦い痛み。  命を救ってくれた怜二への感謝。  家族の笑顔。  輝く太陽。  今でも、昨日の事のように思い出せる。  (まばゆ)い記憶。  苦しくて怖かった。  嬉しくて誇らしい。  遠い夏の、忘れられない記憶。  ●  優しい怜二を探している。  見つけてほしいと、きっと泣いている。 ●  これは私を貪りつくした怜二。  これはお金の為に義父と母に手をかけた怜二。  どこだろう。  どこだろう。 ●  これは学校帰りの優奈()を攫い自殺に追い込んだ怜二。  これは娘を想い、復讐に囚われた雅樹()を行方知れずにした怜二。  見つからない。  見つからない。 ●  でもね。  必ず見つけてあげるから。  パンドラの箱に残った、希望のように。  だから、待っててね?   ●  も少し小さくしないと、見つからないのかも。  ひとつひとつを、もっとしっかりと。  よ、いしょっ、と。  あ、このあたりかな? ●  だるまさんが、こーろんだ。  動かなかったね、うふふっ。  佳奈は、ここだよ?  いないいない、ばああああああああ。 ●  私だけなら、よかったのに、ね。  私だけなら、よかったんだ、よ?  でも今さら、ごめんなさい、は無し。  佳奈はぷんぷんなの、あっかんべえええええ。   ●  ……あ。  細かくしすぎて、私の中に移動したのか。  ここかな?  ここでしょ。 ●  あかいろ。  いっぱい。  だいじょうぶだよ?  もうなんにもいたくない、きもちもからだも。 ●  えへへ、ふしぎだね。  あ、ここ?    じゃあ……ここ……?  こ…… ●         れ  い  じ         お  い  で  ?  ゆ  る  さ
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