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 急いでバスを降りると、足は駐輪場へ向いてしまう。  いや、彼を探してどうしようというのだ。  私は足を止めた。わずかに残った理性がブレーキを踏む。  それなのに、見つけてしまった。  改札に続く通路の入り口で、レインコートを脱いでいる。コートから雫が落ちる。  彼の制服のズボンの裾は、濃い色に濡れていた。  モノクロの景色に抜け落ちたピースが鮮やかに当てはまるように、私には彼の姿だけが色を持って見えた。  前髪からしたたり落ちる水滴でさえ、飛んでいって掬い上げたいくらい尊く感じてしまう。  視線に気が付いたのか、彼がこちらを振り向く。不思議そうに私を見つめると、髪の毛の雨を手のひらで払った。  私は握りしめていたハンカチを差し出す。 「え? あ、ありがとう」  彼は受け取ったハンカチを遠慮がちに額に当てる。その姿を見て、ぎゅっと何かに心をつかまれた気がした。その勢いのまま口を開く。 「あ、あの、バス、やめたんですか?」  どうしてやめたんですか? そう聞こうとして、口をつぐむ。  だって、そんなの私には関係のないことだ。彼がバスに乗ろうが乗るまいが、私にそれを確認する理由なんてきっとどこにもないのだから。  それに、彼が私を覚えているかどうかもわからないのに。そのことに思い当たって、自分の愚かしさに頬がカッと熱くなった。  私は顔を隠すように俯ける。できることなら今すぐにでも、この場を走り去りたいくらいだ。
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