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 ──傘に落ちる雨粒の振動が、()を握る手のひらに伝わってくる。パタパタとリズムよく、心をノックするように。  朝の通学時間帯。私は自宅から徒歩5分のバス停で、私鉄の駅までのバスを待っている。いつもどおり、バス停に立っているのは今日も私だけだ。  周囲に住宅はいくつもあるけれど、出掛ける時間帯が違うのか利用者は毎朝、私しかいない。  このバス停のひとつ手前が始発で、そちらはそれなりに利用者がいる。近くに大きな集合住宅があるせいかもしれない。  サァッと音を立て、車が通り過ぎる。私は傘を傾けて道路を覗き込む。梅雨入りして最初の雨の日。淡いクリーム色のバスの車体が交差点の向こうに見えて、心臓が音を立てはじめる。  前髪を指先で整え、小さく息をつく。よし、平常心。  近づいてくるバスを視界の端に入れたまま、私は傘をすぐに閉じられるよう準備した。ICカードが入ったパスケースは、もう手に持っている。  目の前で開けられたドアをくぐる。カードリーダーにパスケースをかざしたとき、一番後ろの右端の席に、彼の姿を見つけた。私はすぐに目を逸らす。  今日も、いた。  じんわりと、胸の真ん中から指の先まで、温もりが広がってゆく。私は吊り革につかまり、窓の外を眺めるふりをした。ガラスの向こうで水滴が転がる。  雨が降っている朝にだけ、彼に会える。
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