とある雨の日の出来事

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そこは、雨だった。 降りしきる雨が、強く、でも、短い時間のような気はした。 私は、広い部屋の木の床で、滝のように降りて来る雨を、座り込み、ぼんやりと眺めていた。 木の柱に寄り掛かり、滝のように滴り落ちる石垣を眺める。 だんだん、曇り空のように、私の心は、沈みかけていく。 私は、何をしているのだろう。 こんなところで。 こんなにたくさん、私を守ってくれる強い人達がいるのに、 当主である私が何も出来ないなんて。 仕えてくれる人達が、優秀すぎてもったいない気がした。 そして、私は、不甲斐ない気がした。 平民の為にも、こんな田舎城の当主ではなく、裕福に暮らせるように、 治める土地を増やしていかないといけないのに。 こんなところで、立ち止まっている場合じゃないのに。 悔しくて、悲しくて、涙が、落ちる。 滝の雨の音が、私の泣き声を、かき消してくれるように、 さらに大きな音が聞こえてくるようだった。 雨よ。もっと降ってくれ。 私の心を少しでも潤してくれるように。 でも、私の心は、さらに闇に落ちて行く。 もう、どうにもならないぐらい、落ちていった。 その時、そっと、白い長羽織が掛けられた。 私が気づかないうちに、誰か入って来ていた。 誰にも見られたくなかったのに、1人で、こそっと、泣いていたかったのに。 白い長羽織には、見覚えがあった。 いつも、あの人が、身に着けていた物だった。 あの人は、私の足元近くに立っていて、書類を両手にかかえていた。 あの人は、内政担当の筆頭だから、こんな田舎城でも、忙しいのだ。 (私の憧れの人・・・)そう思っていたが、いつも口に出せないでいた。 あの人と、私は、当主とその部下という立場だったから。 あの人は、私と出会う前に、もう結婚をしていた。 だから、決して、私の心を打ち明けてはいけない。 あの人も、私のそれが全て分かっているようで、つねに距離を詰めずにいてくれた。 本当は、今、あの人の胸の中に、飛び込んで泣いてしまいたいけど、 それは、絶対に出来ない。 あの人も、同じ気持ちだったのかもしれない。 今まで、決して、私に触れようとはしなかった。
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