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「うわ、可愛い」
ペットショップで私は声を上げた。動物が生活しているとは思えないくらい清潔なガラスケースの中では、ふわふわな子猫があくびをしている。思わず口の中までのぞき込んでしまう。ちっちゃい牙さえ可愛い。ふぁふっと子猫が口を閉じる。
「なんなんだろう。この可愛い生き物は」
「猫か~。私、動物って飼ったことないからよくわからないや」
隣で興味なさそうにあくびをしているのは人間の千晶だ。
「同じあくびでも人間と猫じゃ全然違うね。どうして猫はあくびしてるだけで可愛いんだろう」
「えー、何それ。私だってあくびしてても可愛いでしょ。てか、あくびしてるだけで可愛いって言われる猫ずるい」
「ずるくないよ。可愛いものは可愛いんだから仕方ない」
「そんなもんかなぁ」
眉間に皺を寄せながら、千晶が子猫をじっと見ている。そんな様子を見ていたら。
「ふぁ」
私にもあくびが移った。
「確かに、可愛いものは可愛いかもしれない」
「え?」
「あくびしてても弥生は可愛い」
さっき私が子猫にしていたように、千晶は私の顔をのぞき込んでいる。
「ちょっと、やめてよ。そんなの外で恥ずかしいよ」
「えー、いいじゃん」
千晶は笑って私の頭を撫でる。ごわごわで、撫でても気持ちよくもない髪なのに。私のことも子猫のことも興味なさそうにしているくせに、そういうことを急にするのはずるい。
「もう!」
私は千晶の手を振り払う。
「家では私の髪だって撫でるくせに」
「それは家の中だからだよ。大体、立ってるときは身長差だってあるんだし……」
「じゃあ、私の方が小さかったら立ってるときでも撫でてくれるんだ」
うしし、と千晶が笑う。
私はふわふわの千晶の髪を見る。私とは違う、細くて猫の毛みたいな髪の毛。触ると手のひらをさらさらと抜けていくのを私は知っている。まとまらない私の髪とは違って、櫛がすっと通るうらやましい髪質だ。千晶は髪が細すぎて地肌が見えやすいのが嫌だとか言っているけれど、私はその髪が好きだ。
千晶が言うとおり撫でたくなってしまうけれど、口には出さない。家に帰ったら私の気が済むまで思いっ切り撫でてやろう。さっきのお返しだ。
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