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「元気いいやつもいるね」
千晶が再びガラスケースの中を見ている。寝ている子猫の他にも、さっきからフェルトのボールを追いかけて走り回っている子もいる。その子のことを言っているらしい。
「いいな。猫は自由で」
千晶が言う。
「好きなときに寝て好きなときに遊んで。いいよね」
私は答える。
「弥生は猫飼いたいの?」
「うーん。でも今住んでるアパートってペット禁止でしょ? それに生き物飼うのって大変だよ。死ぬまでお世話しないといけないんだから。可愛いだけじゃ出来ないでしょ」
「なるほど。弥生は真面目だね。だからこそ、飼うとなったらちゃんとお世話しそうだよね。めちゃくちゃ可愛がりそう。私には無理だけど」
「確かに、千晶には無理そう」
「やっぱり?」
「でも、私もこれ以上はいいかな」
「これ以上?」
「千晶の世話だけでもう充分って感じだから」
「え、私ってそんなにお世話されてる?」
「いや、気付いてないんかい。靴下脱ぎっぱなしだし。料理だって、私が作った方が美味しいからってほとんど作らないし」
「だって、本当に美味しいし」
「ほら、すぐそうやって言う。本当に世話が焼けるんだから」
「あはは」
千晶が笑う。そして。
「お」
千晶がガラスケースの向こうで起こっていることに視線を向ける。
「夢中だね」
今度は元気な子がキャットタワーにぶら下がっているポンポンにじゃれている。
「猫って立つのか」
千晶は感心したように言う。
「意外と器用だよね」
「もしかして、元人間だったりして」
「違うと思うけど」
「だよね。そしたら、わざわざこんなところに入らないよね」
「と、思うよ」
「せっかく猫になるなら自由でいたいよね」
「きっとね」
本当に元人間だろうか。私は子猫をじっと見つめてしまう。猫は何も知らないみたいに、元気いっぱいに遊んでいる。
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