それなら、安心だな

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それなら、安心だな

「うう、またお祈りメール」  千晶がスマホの前で突っ伏している。猫のキャラクターのクッションに顔をうずめているため、あまり悲壮感はない。けれど、本人はそうではないようだ。一応、それは私が大事にしているクッションなのだが、今は注意するのも忍ばれる。  お祈りメール。  つまり、企業からの不採用通知が届くのはこれで……。 「お祈りメール、何通目だっけ」 「傷を抉らないで」 「……ごめん。単純にどれくらいだったっけと思って。ほら、大学でもみんな話してるし。もう何通目とかよく聞くから」 「それは、そうだけど。だからと言って私の辛さが和らぐわけではない」 「そうだね。ごめん」 「いいなあ。弥生はもう決まってるもんね」 「うん」  頷くもののこれは少し気まずい。千晶が顔を上げて私を見ている。恨めしそうな顔をしていると思うのは気のせいだろうか。 「そう言われても、私だってたまたま受かっただけだし運がよかったんだよ。さっさと決まってる方が珍しいんだから」 「そうかもしれないけど」 「さっきも言ったけど、みんな決まってないし」 「でも、弥生は決まってる」  私は黙る。黙ってしまう。堂々巡りだ。千晶はいつも細かいことを気にしないように見えるし、他の友人たちにもそう思われている。だけど、本当は落ち込み始めるととことんまで言ってしまう性格だということを私は知っている。 「それだけで焦る」 「……うん」  私にもなんとなくわかる。これが逆だったら、私だってきっと居心地は悪かったと思う。 「ねえ、私がこのままニートになったらさ、弥生が面倒見てくれる?」 「なに言ってるの」 「ほら、弥生って面倒見がいいじゃん」 「まだ全部落ちるとは決まってないでしょ」 「ここまで来たら全部落ちる自信がある」  さっきまで弱々しい声を出していたくせに、こういう時だけやけに自信に満ちているところが困る。 「でも、別にどうしてもって言うならフリーターとかでもいいんじゃないの?」 「それは、大学卒業してもずっと二人で暮らせるってこと?」 「……もちろん、そうだったらいいなとは思ってるよ」 「私もだよ」  ごろん、と千晶が床に転がる。 「もう少し、がんばろ」 「うん」  千晶の呟きに答えながら、私はふわふわの猫っ毛を撫でた。千晶の髪の毛は私の指をさらさらとこぼれ落ちていく。
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