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夏休みは一緒に過ごした。一緒に住んでいるのだから当たり前なのだが。
千晶はお盆も実家に帰らなかった。だから、私もそうした。
「面倒だし」
千晶は言った。そして付け足すように呟いた。
「それに、少しでも弥生と一緒にいたいし」
私も千晶と二人で過ごす時間が多いのは嬉しい。けれど、そう言った千晶の顔が少しさみしそうだった。
大学生活最後の夏だ。
私は言った。
「これからも一緒にいる?」
そうだと思っていた。私も千晶も、大学進学のために地方から東京に出てきた。
私は東京で就活した。千晶もそうだ。だから、当たり前のように来年も二人でここにいるのだと思っていた。
千晶の就職先はまだ見つかっていない。
千晶はまだ答えない。
「私、この部屋気に入ってるし、就職先もここから通えるしさ。ほら、二人で暮らそうって言われたときにはびっくりしたけど、親にも友達と一緒ならって言ってもらえたし。女友達なら安心だって。本当は恋人とかそんなこと言わなきゃいいだけだし。家賃だって安く済むし」
私はまくし立てるように言う。
千晶は困ったように笑う。
「でも、私が就職浪人になったらただのヒモになっちゃうよ」
「それはバイトでも何でもしながら就職先ゆっくり探すことだって出来るんじゃない?」
私はムキになっていた。この先が聞きたくなかった。なんとなく、ここまで来ると想像が付いた。
「あのさ、就職先が見つからなかったら帰って来いって」
「え?」
「東京でぶらぶらさせてるような金は無いってさ。それなら帰ってきて就職先探せばいいって」
「そんなの。向こうに帰ったからって、うまくいくわけでもないのに」
「だけど、そっちの方が安心なんだよ」
「安心のために帰るんだ」
言ってしまったと思った。いつも適当にしているように見える千晶が黙り込んでしまったからだ。責めているように聞こえたと思う。
千晶はぽつりと言った。
「がんばってるんだけどな」
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