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千晶はあの猫柄のクッションを引き寄せて顔をうずめた。
それから何かを言った。
「……になろうかな」
「なに?」
聞き取れなかった。
「ううん。なんでもない」
千晶はただ首を振った。
「私も弥生と一緒にいたいよ」
それはくぐもった声だったけれど、ちゃんと聞こえた。
「だったら、ヒモでも構わないよ。ずっとは、困るけど」
「うん」
クッションごと千晶が頷く。
「私、猫だったらよかったな。そしたら、いるだけで可愛いって言ってもらえるし。猫、なろうかな」
「そりゃ、猫ならいるだけでも可愛いけど」
「だよね」
「まあ、元々千晶なんて猫みたいなものだけど?」
好き勝手しているくせに時々妙に真面目な顔をして、よくしてくれている人にほいほいすり寄っていく。それなのに私にだけ懐いているような弱みを見せる。
千晶が顔を上げる。そして、笑った。
千晶はズルい。
猫みたいに、いるだけで可愛い。世話を焼きたくなる。私はいつも甘やかしてしまう。私は誰にでも可愛がられるような千晶が、私の前でだけ見せてくれる顔が好きだから。
「あのさ、弥生は猫になろうとか思わない?」
「えー」
私は考える。考えて。
「私はいいや。猫になったら猫を愛でられないでしょ。可愛がる方が私はいいな」
「そっか。そうだよね。弥生は、そうだよね」
私の返事に満足したのかしていないのか、千晶は笑った。そして、言った。
「それなら、安心だな」
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