Void

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「突然、お引止め致しまして申し訳御座いません。……あの、今日はお嬢様は?」  槐は一瞬、返す言葉に躊躇する。 「はい、先日傘をお貸し頂きました御かげで、お嬢様は体調を崩す事無く元気にしております。が、もともと蒲柳の質でございまして、引っ越して来たばかりで疲れも出やすいだろうと、今日は私一人にて、お嬢様は失礼させて頂きました」  別に用意してなかった訳ではないので、言葉を選びながらではあるが、だいたい筋書きはこんなものだろうと槐は思った。  実際、人であったときのヒサはそうだったのだから。 「そうで御座いましたか」  店の主は目線を落としながらも、本当はまだ何か聞きたい事がある様子だ。  槐は、それが正解かどうか分からなかったが、こちらの筋書きの続きを語ってみた。 「この地には、お嬢様の気分転換も兼ねて静養して頂くため、限定的に引っ越して参りました。海あり山ありで風光明媚な事と、とても有難いお宮様が御座いますし。具合が良い時があればお参りに伺う事も出来ればと思っております」  そう言って、店の主に笑いかけた。  それを聞いた主は顔を上げて、 「あの、そちら様のお嬢様にお願いが御座います」と切り出した。
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