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「よし、次がラストだな」
ちょび先生が一言告げて、一番後ろの席に座っていた例の女の子がゆっくりと立ち上がった。
ピンクベージュの髪がサラッと肩を滑り、教室内の男子の、そのほとんどが彼女に見惚れている。
それは、蛍の前の席に座る陽キャの玲すらも――。
「めっちゃ可愛くね? タレント?」
と小さな声で呟いていたのだから、やはり男女問わず誰が見ても彼女の可愛さはずば抜けているのだ。
クラスメイト全員の視線が彼女に集まる中、息を吸った彼女の視線の先には、何故か蛍しか映し出されていなくて。
「(……また目が合った……?)」
まるで他の生徒は眼中にない、蛍だけにしか用はないという瞳をしていた。
「佐倉葵です、グラフィックデザイナー志望。よろしくお願いします」
「…………佐倉……葵?」
その名前を聞いた瞬間、瞬きも拍手を送るのも忘れた蛍は、葵という女の子の顔から目が離せなくなってしまっていた。
それは昔から馴染みのある名前のはずなのに、頭の中で情報処理が追いつかずただただ硬直する。
何故なら蛍の記憶に残っている佐倉葵は、臆病で優しくて可愛い顔をした、いつも一緒にいた幼馴染の、男の子。
しかし今視界に映し出されているのは、誰がどう見ても可愛らしい女の子で。
昔の記憶と見えている現実が一致してない事により、脳内でバグが発生していた。
「ええええ!?」
小学四年生のあの事件以来、疎遠になってしまった幼馴染の葵。
何がどうしてそうなったのかは全くわからない蛍だけど、それでも一つだけ確実に言えるのは。
超絶可愛い男の娘となって思いがけない再会を果たした葵と、18歳の春を共に迎える蛍。
二人の間の止まっていた関係が、ゆっくりと動き始めたという事だった。
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