01. 私の知ってる幼馴染じゃない

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――――二時間前。  「行ってきます!」  まだ出勤の支度をしている母にそう告げて、マンション五階の自宅を飛び出たのは。  今日からデザイン専門学校の学生として新たな生活が始まる、中宮蛍(なかみやほたる)、18才。  高揚感と緊張感が入り乱れる心を抱えて、エレベーターの昇降口へ向かい下ボタンを押すと、表示される上の階の数字が徐々に少なくなってくる。  それを眺めながら、おもむろに深呼吸を始めた蛍。  女手一つでここまで育ててくれただけでも有難いのに、娘の夢を応援したいと専門学校へも進学させてくれた。  そんな母へ少しでも負担を減らしたいと思い続けて、長年やってきた家事は一通りできるようになり。  18才になったから、アルバイトを始めて学費の足しにしたいとも考えている。  また一歩、大人に近付いたような気持ちでいる今の蛍には、怖いものなんてなかった。  ただ一つ、同じ年代の“男”という生物を除いては。 「……新しいクラスには男子もいるんだから、何とか克服していかないと……」  母子家庭が原因というわけでもない、現に自分よりぐんと年の離れたおじさんやおじいさん、年下の男の子とは普通に話せるのだから。  つまり、自分と年の近い“男”が苦手なのだ。  何故そんな特定の年代の男だけが苦手になったのか、遠い過去の記憶をぼんやり思い出そうとした時。 ――ポーン。  降下していたエレベーターが蛍の待つ階に到着して、ゆっくりとドアを開けた。
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