02. 私のために男の娘してるの?

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 校舎を出るとまだ正午前の太陽は高い位置に昇っていて、眩しさで目を細めた蛍は少し冷静になれた。 「帰ったら、萌さん、萌さんに、確認を……」  葵の実姉なのだから、きっと何かしらの事情は知っているはず。  もしも女の子になりたい願望や、性別に関する悩みがあったのなら、本人に直接問うのも傷つけてしまいそうで怖かったから。 「(全部を知ろうとは思わない、だけど……)」  葵に何があったのか、何故葵が葵でなくなってしまったのか。  色々可能性を考えて、難しい顔をしながらバス停までの道を歩いていた蛍が、何とも言えない寂しさを抱いた時。 「……っ蛍!」 「!?」  呼び止められて振り向くと、息を切らして走ってくる葵が視界に映った。  でもその姿は、ただの超絶可愛い見知らぬ女の子。 「はぁ……久しぶりだね、蛍……」 「う、うん……」  どこか懐かしさを感じる声に、気まずいながらも返事をした蛍。  でも葵の顔は直視出来なくて、足元のアスファルトばかり眺めてしまう。  そんな重い空気が漂う中、葵がゆっくりと話し始めた。 「蛍、まだ男嫌いなんでしょ?」 「え……」 「だから、僕……」  走ってきたせいなのか、動悸の収まらない胸に手を当てて深呼吸する葵は、真剣で熱い眼差しを蛍に向ける。  それは幼い頃に見た、あの臆病で優しい葵の面影もあり。  だけどその瞳の奥には、蛍の知らないところでどんどん“男”に成長していった葵を見たような気がした。
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