456人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
「蛍のために、男の娘になったんだよ……!」
「………………ん?」
二人のいる空間だけ時間が止まり、やや冷たい春風がびゅっと通り過ぎていく。
「……私、のため?」
「うん」
「葵が、男の娘になったの?」
「うん」
「…………い、意味が、わからない……」
葵と向かい合っていた蛍が、額に手を当てながらふらりと踵を返すと、まるで雲の上を進むようにふわふわ歩き出した。
理解が追いつかなくて、一旦じっくり考えたかったが、それを葵は逃してはくれなくて。
――ガシッ!
「!?」
「待って、最後まで話を聞いて!」
「っ……」
片腕を掴まれて、至近距離に葵の真剣な表情を感じた蛍の心臓が、大きく跳ね上がった。
腕から伝わる体温も握力も、もう昔の葵ではないけれど。
同じ行動を知らない男の子にされていたら絶対、反射的に振り払っていたこの腕が、現状のままでいられるのは。
見た目が女の子だからなのか。
それとも――。
「っ……!」
その時、蛍と葵の何とも言えない現場を通りかかったのは、二人よりも後に学校を出たはずの美貴と玲。
「あ〜あ、追いついちゃった……」
「やっぱ蛍ちゃんと葵ちゃんて知り合いだったんだな!」
何となく揉めているのを察して、申し訳ない表情をしている美貴とは反対に、何も感じていない玲が笑顔で駆け寄ってきたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!