02. 私のために男の娘してるの?

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 冗談だとしたら、そろそろ葵が笑い飛ばしてくれるタイミングなのだが、一向にその気配がないということは。 「……ガチ?」 「ガチ」 「ほ、蛍ちゃん、知ってたの?」 「……う、うん」  正確には、葵の性別が男なのは知っていたけど、男の娘になっていたのは今知ったので、返答に若干困った蛍。  その間、葵が男だと知っても狼狽える事なく、むしろ興味津々というように玲は葵に話しかける。 「マジで!? めっちゃ可愛いじゃん! 言われないと全然わかんない、すげー!」 「べ、別に可愛さ追求してないし……」  口先を尖らせながらも、褒められたことで満更でもない様子の葵は、背けた頬がほんのり色付いていて。  全く理解できない葵の言動に、積もり積もった疑問と不満が爆発寸前の蛍が、ついに口を開いた。 「あ……葵は……その、女の子になりたいの?」 「違うよ、中身は男だよ」 「じ、じゃあ、なんでよ……」  誰がどう見ても女の子だと思うような格好とメイクをして、だけど中身は男の子のままで、それを隠すつもりもなくて。  それが全部、蛍のためだと葵は言っていた、その真意は一体。  その返答を蛍だけじゃなく、状況を知らない美貴も、何も勘づいていない玲も待っていると。  突然不敵な笑みを浮かべた葵は、堂々とした態度で蛍に視線を向けた。 「男のままじゃ、蛍と仲良く出来ないだろ」 「なっ……ッ!?」  男嫌いな蛍を考慮して、女の子の姿で接する事を決めた葵は、もう男を理由に拒絶される心配が全くなかった。  だからつい、同じ背丈の蛍に腕を伸ばし、突然かつ自然と抱擁もできてしまったのだ。  男の娘と変貌を遂げた自分は、どんな事も許されると思ったから。 「……ほら、こんなこともできちゃうよ?」 「っ!?!?」  耳元で聞こえた小悪魔のように囁く葵の声は、幼い頃と比べて確実に声変わりをした男子ボイス。  その事に蛍が反応しないわけがなく、相手が葵だろうと何だろうと、男の子に抱きしめられているという事実に。 「ぎゃああああ!!!」  渾身の叫び声が、真昼間の歩道に響き渡った。
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