455人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
冗談だとしたら、そろそろ葵が笑い飛ばしてくれるタイミングなのだが、一向にその気配がないということは。
「……ガチ?」
「ガチ」
「ほ、蛍ちゃん、知ってたの?」
「……う、うん」
正確には、葵の性別が男なのは知っていたけど、男の娘になっていたのは今知ったので、返答に若干困った蛍。
その間、葵が男だと知っても狼狽える事なく、むしろ興味津々というように玲は葵に話しかける。
「マジで!? めっちゃ可愛いじゃん! 言われないと全然わかんない、すげー!」
「べ、別に可愛さ追求してないし……」
口先を尖らせながらも、褒められたことで満更でもない様子の葵は、背けた頬がほんのり色付いていて。
全く理解できない葵の言動に、積もり積もった疑問と不満が爆発寸前の蛍が、ついに口を開いた。
「あ……葵は……その、女の子になりたいの?」
「違うよ、中身は男だよ」
「じ、じゃあ、なんでよ……」
誰がどう見ても女の子だと思うような格好とメイクをして、だけど中身は男の子のままで、それを隠すつもりもなくて。
それが全部、蛍のためだと葵は言っていた、その真意は一体。
その返答を蛍だけじゃなく、状況を知らない美貴も、何も勘づいていない玲も待っていると。
突然不敵な笑みを浮かべた葵は、堂々とした態度で蛍に視線を向けた。
「男のままじゃ、蛍と仲良く出来ないだろ」
「なっ……ッ!?」
男嫌いな蛍を考慮して、女の子の姿で接する事を決めた葵は、もう男を理由に拒絶される心配が全くなかった。
だからつい、同じ背丈の蛍に腕を伸ばし、突然かつ自然と抱擁もできてしまったのだ。
男の娘と変貌を遂げた自分は、どんな事も許されると思ったから。
「……ほら、こんなこともできちゃうよ?」
「っ!?!?」
耳元で聞こえた小悪魔のように囁く葵の声は、幼い頃と比べて確実に声変わりをした男子ボイス。
その事に蛍が反応しないわけがなく、相手が葵だろうと何だろうと、男の子に抱きしめられているという事実に。
「ぎゃああああ!!!」
渾身の叫び声が、真昼間の歩道に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!