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すると、そんな蛍の様子を察して葵が小さく声を発した。
「僕のせいで蛍が男嫌いになったんだ、だから蛍が克服する必要なんてない」
「あ、葵……?」
「だけど僕は……ずっと蛍の事考えてた……」
「っ……」
どうしたら昔みたいに、楽しい事を共有して笑って過ごせるのか。
だけど自分が男である限り、それはもう叶わないということも理解していた。
「女子校に通ってるのも知ってたし、未だに男嫌いなのも姉ちゃんから聞いてた」
「……萌さん」
「専門学校に進学するって蛍の母から教えてもらった時は、今しかないと思ったから……」
「……お母さんっ」
別に口止めまではしていなかったが、蛍と葵の現状の関係を知っている人たちが情報漏洩の犯人だと判明し、頭を抱える蛍。
となると、蛍のあらゆる状況や近況を陰ながら把握していた葵が、蛍に近付く為に考えて導き出した答えが。
男の娘だというの――?
「だからって、葵が無理してこんな……」
こんなことしてまで、どうして自分との関係の修復を急ぐのか、蛍が問いかけようとした時。
「男のままじゃ、怯えさせるとわかってるから近付けない……」
「でも……」
「蛍のためなら何だってできるよ、僕は、蛍が大好きだから」
「っ……」
美貴と玲の存在もお構いなしに、蛍だけを視界に映してそんな言葉を送った葵。
その表情は今までで一番真剣で、熱く切ない感情をのせた眼差しが蛍に突き刺さる。
そんな二人の様子を真正面に見ていた美貴は、葵の純粋で一途すぎる想いに、初対面ながらも気付いた。
「(葵くんは、本気なんだ……)」
自分のせいで男嫌いになり、疎遠となった幼馴染の蛍と、また関係を築いていきたい葵。
だけど性別を変えることは出来ない、自分が本能的に男だと自覚できるくらいに、蛍の事を想っているから。
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