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「あれ、蛍ちゃんだ〜!」
「え、萌さん?」
するとエレベーター内に立っていたのは、七階に住む佐倉萌。
葵の姉で、確か4つ年上だったはずの萌は、相変わらずの美人でスタイルも良く、最先端の流行を取り入れる今時のお姉様。
「今日から専門学生だっけ?」
「はい、グラフィックデザイナーになるため頑張ろうと思います」
「お、かっこいいねー!」
笑顔で会話する蛍がエレベーターに乗り込むと、萌のフルーティな香水を感じて、はぅっと見惚れそうになる。
一人っ子の蛍にとって、萌はただの幼馴染の姉ではなく、本当の姉のように慕っていたから。
「ところで蛍ちゃん、彼氏できた?」
「え! で、できるわけないですよ、男嫌いは相変わらずなので……」
「そっか〜、まああんな事があったらそうなるわよね」
昔のことを思い出しながら、少々重い空気になってしまったエレベーター内。
それを察して、蛍が苦笑いしながら話を続ける。
「もう、私もいつまで引きずってるんだって感じですよね!」
「ううん、そんな事絶対思わないよ、だって蛍ちゃん被害者なんだよ?」
「……っ」
「うちの葵が一緒にいながら助けなかった方が問題よ! 男のくせに全く!」
「……葵もきっと、怖かったんだと思います……」
萌の怒りの矛先が葵に向けられてしまったところで、目的の一階に到着した2人。
天気にも恵まれ、心地良い春の風を横切りながらマンション前の公道までを並んで歩く。
「葵とも、それきり話せてないのよね?」
「はい、すみません……」
「いいのいいの、謝らないで……ただね」
もうすぐ公道に到着するというところで、萌が足を止めて蛍に切なる願いを打ち明けた。
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