11人が本棚に入れています
本棚に追加
1.絶体絶命の大ピンチ!?
わたし花向ひな子はいま、とってもとっても大変なことになっている。
葉っぱが混ざったやわらかい土に尻もちをついて、目の前に立ちはだかる女子グループを見上げる。
みくと花音ちゃん、メイメイ、かまちゃん……。
みんな、5年2組のリーダーのような女の子たちだ。
わたし? わたしはぜんぜんちがう。みくたちにはかなわない。
みくがひまわりなら、わたしは……歩道の横に生えている草みたいなかんじ。クラスにいても目立たない。むしろ、無視されてるって言ったほうがいいかな?
「ねー、ひな子早くしてよぉ」
花音ちゃんがツインテールをゆらしながら、わたしの顔をのぞきこんでくる。
その目がぞっとするほど冷たくて、わたしは思わず泣き出してしまいそうになる。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
おまじないのようにそう唱えて、服の上からおまもりをさわる。だいじょうぶ、ちゃんとここにある。
「ひな子がメイのあいさつ無視したから悪いんじゃん、わかってる?」
花音ちゃんに続くように、みくも笑いながらわたしを見る。
わたしは二人から距離をとるように、じりじりとお尻を後ろにずらした。
やわらかい湿った土のせいで、ズボンが冷たくなる。
逃げ出そうとするわたしを見て、みくたちはおもしろそうに笑い声を上げた。
「あー! ひな子こわいんでしょ?」
くすくすと、小さな笑い声がわたしを包む。
こんな場所、すぐにでもはなれたい。
だって、ここは……。
「お、おばあちゃんが入っちゃいけないって……!」
「なに? 声小さくて聞こえなーい」
わたしはひざの上で、手をぎゅっとにぎりしめた。
だれも助けにきてくれない。自分でなんとかしなくちゃ。
横に放り出していたリュックをかかえて、ふるえる足に力を入れて、立ち上がる。
わたしが立ってもみくの身長にはとどかない。
下から見上げるように、みくの顔を見る。
「おばあちゃんが天狗の森には入っちゃいけないって言ってたの! 入ったら、天狗にさらわれて、食べられちゃうんだって!」
今度は聞こえないって言われないように、うんと大きな声で言った。
笑っていたみくたちが少しだけ、静かになる。
でも、それはいっしゅんだった。すぐにゲラゲラとした笑い声が、だれもいない森にひびく。
「ひな子ってホントお子さまね!」
「で、でも、おばあちゃんは本当に天狗がいるって……」
みくはわたしの言葉をふんっと鼻で笑った。
「そんな都市伝説みたいなものを信じるところが子どもだって言ってるのよ!」
みくの言葉を合図にしたように、女子たちがわたしの後ろに回って、ぐいぐいと背中を押しはじめた。
「ほら、早く入っちゃえー!」
「や、やめて……!」
わたしの悲鳴を無視して、ぐいぐい背中を押される。
天狗の森の入口には、大きな赤い鳥居がある。
その鳥居が、わたしにおいでと言うように大きな入口を開けて待っている。
――天狗の森には決して入ってはいけないよ。
おばあちゃんの声が頭の中にひびいて、わたしはぐぐっと足をつっぱった。
ぜったいに入っちゃいけない。
おばあちゃんとの約束を破っちゃいけない。
「そんなことしてもムダだよ!」
花音ちゃんの明るい声がひびく。
こういうの、なんて言うんだっけ?
――ひな子、あんた学校でいじめられているんじゃ……。
ああ、そうだ。
わたし、花向ひな子は学校でいじめられている。
杜ノ町小学校5年2組に、わたしの居場所はない。
いまも罰ゲームだっていって、入っちゃいけない天狗の森に入れって言われてる。
「ほらほら、もうちょっとだよー!」
鳥居はすぐ目の前までせまっている。
女の子四人に力いっぱい押される。
最初のコメントを投稿しよう!