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彼女は告げる
月が照らす野営地の周りを、班ごとに巡回する。
たまに不運なノイシュル兵がやってくるが、ほとんどが剣を抜く前に騎士団に捕縛されていて、目隠しに猿轡、両手足を戒めた上でテントの一つに詰め込んだ。
「後で仲間が見つけてくれるだろ」
もちろん、果敢に抜刀した兵士もいたが、彼らは骸となって湖のそばに寝かされてある。
「野蛮な国だけど、兵士の技量は低いっすね」
「そうだな、彼らはーーろくに訓練も受けていないだろうな」
湖面にうつる城と月が揺れる。魚が跳ね、水鳥がそれを狙う。
「隊長、実際の城もーー揺れますね、こんなふうに」
「そうだな、アイリスさまが何もせず大人しく人質でいるわけがないからな」
ですね、と騎士団の間で期待を込めた笑いが広がる。
「ノイシュル国はこの戦に勝ったつもりで王女を差し出せと言ったんだろうが、アイリスさまに自分たちの城を差し出したようなもんさ」
「隊長、城の一角から煙が一筋! それも、隊長に応えて黄色い煙です!」
「よおっし、姫様はーー南の塔だ」
大きな黄色い篝火ーー騎士団が来ました、の意味がちゃんとアイリスに伝わった。
そう。
アイリスはいつも何かの作戦の前後に言うのだ。
「これからもよろしくね」
と。
それはつまり、己のサポートをこれからもよろしく、という意味なわけでーー。
「南の塔へ静かに侵入し、姫様と合流するぞ。せっかちな姫様がお一人でことを起こしかねない。急ぐぞ!」
「おう」
数ヶ月後ーー。
人々はあっと驚く事になる。
野蛮な軍事国家ノイシュル国が内乱により壊滅、隣国から派遣された王女アイリスがノイシュル国の王子と結婚し女王として即位したのだから。
「みんな、これからもよろしくね」
白馬に乗った女王は、王配を従え微笑んだ。
今度は何をやるのだろう?
騎士団と王配は、期待を込めて女王の傍に膝をついた。
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