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第2話
変な名前をつけられた子供も、みじめな気持ちになると思う。
だけど、名前がないことも、俺にとっては、みじめ以外のなにものでもない。
「ワンエイスの末路にいたなら、何のワンエイスなのですか?」
「それが、わからないんだ・・・。
父親が人間なのは確実みたいなんだけど、母親が誰なのかも、何のクウォーターなのかもわかっていない」
「研究員の方には、聞いたのですか?」
「聞いても、答えてはくれなかった」
「うちと、同じなのですね。
うちの親が誰なのかもわかってないですし、何のクウォーターなのかもわかっていないのです。
ただ、わかるのは、人間の血の方が濃いということなのですよ」
俺は、何なのだろうな?
自分でも、わかっていなくて、それなら、誰にもわからない。
俺は、何のために存在しているのだろうか?
次の日、不良グループたちは、死んでいた。
死んでいたというより、殺されたのだ。
やっぱり、俺は大切な命を救えなかったのか・・・・。
担任の先生が、ホームルームの時間に、生徒たちにこう言う。
「皆さんも、いじめとか絶対に行わないように。
いじめを行えば、天罰を受ける世界なのだから」
そう、ここは「いじめ殺し」という奇妙な存在が管理している世界で、いじめをすることはもちろん、差別となる行為も許されない。
いつ、どこで、誰が見ているのかわからない。
学校が終わり、俺がいつものように家へ帰ろうとしたら、小さなリスがいた。
ただのリスだろうと、気にしてなかったので、通りすぎようとしていた。
「小僧」
「俺のこと?」
「お主以外、誰がいるのだ?」
「誰もいないけど?」
リスが喋ったと驚くことよりも、リスが喋った?という疑問の方先にでた。
「いじめ殺しを退治したいと思わないか?」
「思えないです。
思わないです。
俺は弱いし、無能で、研究所からも追放されるくらいなので」
「それは、お主が使い方とか、研究所にいるやつらも、真の能力っていうのをわかっていなかったんだろう。
こんな100パーセントのうち、1パーセントしか引き出せない能力で、戦うとか無理あるだろうに」
「どういうことですか?」
「お主は、自身の能力を自覚してないのだな。
うむ、貴様は、電気属性という1パーセントしか引きだせない能力を真の能力と勘違いして、本当の能力を引き出せてないんだ」
「どういうことなのか、全くわからないのですが・・・」
「こんなこともわからんとは、まあいい。
どちらにしても、お主は選ばれし者。
どちらにしても、わかる日がくるわい」
こうして、リスは姿を消した。
あのリスは、何だったのだろう?
そんな疑問を抱えながら、俺はそのまま家に帰ることにした。
ここで、地獄が待っているとは思わなかった。
「待ってよ・・・、これは、どういうことだ?」
家が、荒らされていた。
そして、おじいちゃん、ライハイツ叔父さん、まほさん、そして従妹まで、死んでいた・・・・。
「何がどうなって・・・・?」
突然の出来事に、頭が追いつかなかった。
「発見」
後ろから声がしたかと思うと、振り返る暇もなく、俺は無残に刺された。
「この、いじめっ子のくせに、いじめっ子のくせに」
「うわっ」
俺の背中なのか、腰あたりなのかわからないけど、大量の血が流れていくことがわかる。
俺は、うつ伏せの状態で、床に倒れこんだ。
「誤解だ・・・・」
「俺は、いじめなんてしていない」と、言おうとしても、言うことすらできないくらい、意識が遠のいていた。
頭の中で、声がした。
「今の人生に、満足しているか?」
しているわけがない。
しているものか、こんな俺に名前もなくて、本当の親がわからない人生。
もしも、願いが叶うなら、人生を別の形でやり直したい。
そんなこと、できるわけないか。
「できるぞ」
え?
そんなことを思っている間に、どこからか光がでてきた。
「起きてよ、起きて」
気が付けば、教室の机の上で突っ伏していた状態で寝ていた。
俺は、顔を上げた。
「全く、もうすぐでお昼休み終わるよ」
目の前には、ライハイツ叔父さんがいた。
「叔父さん、なんで学校にいるの?」
「おじさん?
何を言っているの?
そんな年じゃないよ」
「じゃあ、何なの?」
「僕たち、同じ学校の同級生でしょ?
それ以外に、何があるの?」
これは、夢?
「俺は、君をなんて呼べばいいの・・・?」
「幼馴染に向かって、今更?
いつも、ライハイツ君って呼んでるじゃん」
「じゃあ、ライハイツ君?」
「馬鹿馬鹿しい。
もう行くよ」
「行くって、どこへ?」
「馬鹿なの?
帰るに決まってんじゃん。
今、何時だと思っているの?」
叔父さん、ライハイツ君の性格が違う気がする。
容姿は同じだけど、言い方も、きつくなっている。
ライハイツ君が、カバンを持って、教室を出ようとしたら、転んだ。
「いてっ」
俺は、その様子を見て、思わず笑ってしまった。
「ライハイツ君は、相変わらず天然だね」
「うっさい、笑うな!
ちなみに、天然じゃないから」
「そこが、天然なんだよ。
超天然さん」
ライハイツ君は、ここで顔を真っ赤にして「さっさと帰るぞ」と、教室を出て行った。
俺も、カバンを持って、その後を追う。
これが、超天然な叔父ライハイツ君と、最弱で真面目な甥っ子の俺の物語なんだ。
これは、夢ではないようだ。
俺には、両親がいることになっている。
ライハイツ君とは、叔父と甥っ子という関係ではなく、幼馴染という関係になっていた。
どうやら、向こうの世界で死んだことにより、パラレルワールドに行ってしまっていったらしい。
俺の名前は、この世界でも存在しないことにはなっていた。
だけど、俺の名前は、自分で決めたかった。
「父さん、母さん、俺も名前がほしい」
その一言だった。
俺の両親が、なぜか青ざめていた。
「お願い、それだけは言わないで?」
「どうして?」
「名前には力があってな、それそのものが呪文になったりするんだ。
だから、母さんは名前がないんだ」
「そうよ。
だから、名前がほしいなんて言わないでね」
もしかして、そのために名前がなかったの?
俺がそう落ち込んでいると、リスがどこからか現れた。
「わっ!」
「驚くでない。
初対面では、なかろう?」
「君は、誰?
そして、俺は何者なの?」
「いいことを聞いてくれた。
おいらは、スクイアットロ。
そして、お主が名前がない理由は、名前が付けれない理由は、この名前そのものが呪いに変わってしまうからなんだ。
そして、お主の正体は、いじめ殺しとのワンエイス。
つまり、お主の母親が、いじめ殺しとのクウォーターということになる」
「どうして、君が俺のことを知っているの?」
「おいらが、これからパートナーとなる者で、平行世界に行く前から、お主の母親から説明は受けていた。
ワンエイスで生まれたがために、ワンエイスの末路という研究所で育てられたという話だが、よいか?
お主は、名前を求めてはならん。
自分の名前がほしいかもしれないが、それは災いを呼ぶ。
だから、いじめ殺しとの子供、ハーフ、クウォーター、ワンエイスを含めて、名前がない。
そして、お主は選択肢を迫られる。
そう、いじめっ子を殺すか、いじめ殺しの救済をするか。
そして、おいらはそのパートナーとなるため、お主の選択肢には口だしはしない。
よいな?」
「俺、自分が何者なのか知りたいんだ。
本当の親のこと、そして自分自身のことを知りたいし、どうしてパラレルワールドに来たのかも」
「まあ、すべては簡単な話だが、いいだろう。
契約だ。
これからは、おいらをパートナーとして、一緒に世界を変えていこう」
「君を、簡単に信用していいの?」
「いきなり、信用しろというのも無理な話だ。
よし、君に特典をつけてやろう。
美少女と旅ができるという特典だ」
「特典とか、美少女なんかに食いつかないから」
「お主にとっては、嬉しい特典だと思うがな」
「最弱なお主には、最強の戦闘美少女がついてくる。
その美少女は、記憶を持っておらず、それぞれ複雑な過去を持っていて、一人だけを救える。
悪い話じゃないだろう?」
「それって・・・・」
「そう、今からここへ瞬間移動するぞ」
こうして、俺は一瞬で、何もない空間へ転送された。
「ここは?」
「お主は、美少女を一人だけ助けて、ここからスタートする」
目の前に美少女は見えず、
大きな氷、
大樹、
巨大な岩
の3つがあるだけだった。
「美少女なんて、見当たらないけど?」
「何を言っている?
この中に閉じ込められている美少女を、一人だけ救うんだ」
「何がどうなっているのかわからないし、誰を救えばいいんだ?」
「んなことは、自分で決めるんだ」
「直感で、決めるとか無理があるよ」
「氷に閉じ込められた美少女、木にされた美少女、巨大なる岩の中に封じられた美少女のどちらかを助ければいい。
多分、軽い電撃で封印は解けると思われる」
「この美少女たちと、何の面識もない・・・」
三人とも、俺の知らない女の子たちだ。
一人しか助けられないとなると、誰を助けていいのかわからない。
「もう少しだけ、情報をくれます?」
「美少女についての情報が、ほしいのか?
それなら、ここに書いておる」
石板に、「100年以上も眠り続けた少女たち」と書いてあった。
「100年も?
今更、目覚めても・・・・」
「100年の眠りが終わっても、戦闘美少女としての運命が待っておるがな」
ここから、目覚めても過酷な運命が待っているのかと思うと、気が気でない。
俺の選択肢が、彼女たちの未来を決めてしまうようなものだから。
「選ばれなかった女の子たちは、どうなるの?」
「そんなものは、決まっておる。
この場所で、また選ばれし者が封印を解く日まで、眠り続けるんだ」
「もし、可能なら、三人の封印を解きたいな」
「それは、ルールー違反だ。
警告が、こちらに来てしまう」
石板には、こんなことが書かれていた。
氷で眠る少女
魔法は、氷属性
紫色の髪と、紫紺の瞳を持つ
身長は、157センチ
貧乳
名前も、過去の記憶も失っている
樹木になった少女
魔法は、木属性
緑色の髪と、翡翠色の瞳を持つ
身長は、158センチ
普乳
名前も、過去の記憶も失っている
岩に封じられた少女
魔法は岩属性
空のような青い髪の碧眼
身長は、159センチ
性格は、世話焼き
巨乳
名前も、過去の記憶も失っている
「この情報だけではわからないのと、こんな情報は本当に必要なの?」
「仕方ないだろう。
発見された時点で、こんな姿なのだからな」
「やっぱ、できないよ」
「できないって、何が?」
「誰かを切り捨てて、誰かを救うことなんて。
だから、この三人が助かる未来を見つけたいんだ」
「それは、ルール違反をしてでもか?」
「決まりを破るつもりはない。
だけど、一人だけを救うんじゃなくて、みんなを助けたい。
そのために、何ができるのか探したいんだ」
「なるほどね・・・・」
スクイアットロは、しばらく考えこんでいたが、すぐに「わかった」と承諾してくれた。
「そんな選択肢があるなんて、考えもしなかった。
よし、ここはこうしよう。
いじめ殺しの仲間に加入するかも、退治するかも、正直言うと、戦闘美少女を見つけるまでは、お主はどこにも所属できない状態となる。
戦闘美少女と同じ血を引く、ライハイツ君を、戦闘仲間に加えるか、守るか、どちらか選んでもらおう」
「話が見えてこない。
どうして、ライハイツ君を?」
「いじめ殺したちは、ライハイツ君を狙う。
もちろん、お主もな」
「いじめ殺しって、いじめたやつだけを復讐にかかるんじゃないのか?」
俺も、この狂った世界で暴れまわるいじめ殺しのことなんて、よく知っている。
いじめた人を、どんどん殺していく復讐心にあふれた化け物だ。
「理論上ではな。
だが、全員がそれに乗っ取って動くと思うかい?」
「つまり?」
「憎悪がある者は、対象人物だけではなく、その関係者も殺すはず。
となれば、家族や友人が被害にあうリスクも、ゼロではない」
「となると、俺が平行世界で、殺されたのって・・・?」
そう。
俺は、いじめた記憶すらもないのに、いじめ殺しに無残に殺された。
いつ、どこでいじめをしたのかもわからないし、考えれば考えるほど、恐怖しかなくなって、今にも人間不信になりそうだった。
「お主は、友人や家族や親戚が、絶対に誰かをいじめていないと断言できるか?」
「友人や親戚はわからないけど、家族はしないと思う・・・。
ライハイツ君も、おじいちゃんも、従妹も、まほさんも、みんな・・・そんなことしない」
俺は、過去にいじめをしてないかとか、ひどいことをしていないかなど記憶をたどりながら、自信なさげに答えた。
いくら、家族のすることとは言え、四六時中見ているわけではないのだから、なんとなくで答えるしかない。
「誰でも、いじめっ子になることがある。
もちろん、いじめられっ子になることがあるように。
もしかしたら、人類が必ず、一度はしていることかもしれないな。
それでも、人を信じたいと思うか?」
「それは・・・・」
スクイアットロの言うことは、間違っていないかもしれない。
だけど、俺はそんなことはないと、現実を否定したい自分がいた。
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